「わんわん」「まんま」。子どもが言葉を話し始めると、その成長に驚かされます。文法の授業も単語帳もないのに、赤ちゃんはどうやって言葉を覚えるのでしょうか。
話し始める前から、音を学んでいる
赤ちゃんは、言葉を話せるようになる前から周囲の声を聞き、音の違いを学んでいます。
乳児期の早い段階には、日頃あまり聞かない言語の音も区別できることがあります。しかし生後6〜12か月頃になると、普段聞く言語の音に知覚が適応し、聞き慣れない音の違いを区別しにくくなる傾向があります。
言葉を覚える過程は、最初の一語よりもずっと前から始まっているのです。
会話のなかから単語の区切りを見つける
文章には句読点やスペースがありますが、実際の会話にはいつも明確な単語の区切りがあるわけではありません。赤ちゃんは、そのどこに単語があると気づくのでしょうか。
1996年、研究者たちは生後8か月の乳児に、人工的に作った単語を切れ目なくつなげた音声を聞かせました。わずか2分間の音声でも、乳児は音の並びの規則性を手がかりに、単語らしいまとまりを区別できました。
これは「統計的学習」と呼ばれる働きの一例です。音と音がどのくらい一緒に現れるかが、言葉を見つける手がかりになります。ただし、人工音声の実験だけで、日常の言語獲得のすべてが説明できるわけではありません。
人とのやり取りも学習の一部
2003年には、生後9か月のアメリカの乳児に、中国語を母語とする人との対面セッションを体験させる実験が行われました。対面で中国語を聞いたグループには、特定の中国語の音を聞き分ける学習効果が見られました。一方、録画映像や音声だけを提示した条件では、同じ効果は確認されませんでした。
この結果が示すのは、この実験条件での乳児の音声学習における対人交流の重要性です。動画からは言語を学べない、と一般化するものではありません。
ハーバード大学の発達研究センターも、子どもの声やしぐさに大人が応じる双方向のやり取りを紹介しています。子どもが何かを指さす。大人がその先を見て声をかける。そんな場面も、言葉を学ぶ機会になります。
母語の獲得と英語教室の効果は別の問い
今回紹介したのは、主に乳児の言語獲得や音の学習についての研究です。これだけで、英語教室を何歳から始めるべきか、どの学習方法が最良かは決められません。
それでも、赤ちゃんがただ言葉を聞いているだけではなく、音の規則性を見つけ、人と関わりながら学んでいることは分かります。初めての一語には、それまで積み重ねた多くの経験が隠れているのです。
参考資料・さらに知りたい人へ
- Saffran, Aslin & Newport(1996)「Statistical learning by 8-month-old infants」 — 乳児の統計的学習を調べた原著研究。
- Kuhl, Tsao & Liu(2003)「Foreign-language experience in infancy」 — 中国語の音声学習と対人交流を調べた原著論文。全文閲覧可能。
- Harvard University「Serve and Return」 — 子どもと大人の双方向のやり取りについての解説。